美しき秋を旅する
秋は、山々の紅葉と峡谷のコントラストが、ひときわ美しい季節。長野県は植生も多様で、鮮やかな色づき葉が見られるのも魅力です。「なぜ、長野県の紅葉は、どこよりも鮮やかで美しいんですか?」と、他県の方からいわれることがあります。まず、紅葉とはなんでしょう。秋になって急に冷えると、木々の葉に含まれる葉緑素が分解されて、葉の色が赤や黄に変化します。それが、紅葉です。つまり、昼と夜の気温差が大きい長野県は、それだけ気温が急激に冷えて、葉っぱが色鮮やかに染まる、というわけなのです。
長野県の紅葉の季節は標高の高いところであれば早くて9月下旬から色づきはじめます。そして多くの地域での見頃が10月中旬から11月下旬にかけて。紅葉とひとくちに言っても、里の紅葉、山岳の紅葉、あるいは寺社の紅葉などさまざまで、地元に暮らしている人でさえほれぼれするような紅葉スポットがたくさんあります。山々から湧く水によってもたらされる、峡谷と紅葉のすばらしい共演が見られるのも長野県ならでは。そこで、ここでは峡谷の紅葉として名高い名所をご紹介します。
黄葉、紅葉に彩られたV字峡谷で、紅葉トレッキング
松川渓谷/高山村
まずは、全国紅葉100選にも選ばれる高山村の松川渓谷です。日本有数のV字渓谷を造る松川渓谷。切り立った岩場にカエデやブナ、ナナカマドなどの広葉樹がはりつくように繁り、赤や橙、黄金色などのグラデーションが見事で、何時間見ていても見飽きないほど。同じ渓谷内でも標高差があるため、長期間にわたり紅葉を楽しめるのも特徴です。
松川渓谷には、裏見の滝と呼ばれる雷滝や八滝などの名瀑がありますが、とくに八滝近くにある展望台は、絶好の撮影スポットです。松川渓谷のシンボルでもある真っ赤な高井橋から入れる舞の道遊歩道は、約1.5kmにわたる散策路。この道、実は渓谷を茶庭に見立てて造られているのだとか。数寄屋門造りの露地門を抜けて、亭主の迎付を待つ外待合を経て、中門、そして茶室に見立てた茅葺屋根の松楓庵に到着します。ゆっくり歩いて40分ほど。大自然を舞台にした、こんな風流な趣向に、心遊ばせるのもすてきです。
見頃の時期:10月上旬~11月初旬
主な紅葉樹種:カエデ、ブナ、ナナカマド、コナラ、クヌギ、ミズナラ
清流とのコントラストが美しい
裏見の滝と呼ばれる雷滝
11月をすぎればもう冬はすぐそこ
深いエメラルドグリーンをたたえる透明な淵
阿寺渓谷/大桑村
JR東海中央本線の野尻駅から歩いて20分ほど。阿寺渓谷入口からキャンプ場まで続く峡谷沿いは、犬帰りの淵や狸ケ淵、千畳岩、牛ケ淵などの奇岩奇勝が次々と現れ、非日常の風景を織りなしています。
ここは、かつて、木曽五木を運んだ森林鉄道が走っていたところ。その跡地には今、散策路が整備されており、静寂に包まれる谷あいを歩いているだけで心が洗われるようです。
ヤマメやイワナが棲息する阿寺川。深さはそれなりにあるのに、水底が透けて見えるほどで、それだけで川の透明度がわかります。阿寺ブルーといわれるエメラルドグリーンの川面が神秘的です。
途中には、その水で顔を洗うと肌が美しくなるといわれる清水の美顔水が湧き出ているので、空のペットボトル持参で行ってみてはいかがでしょう。
見頃の時期:10月中旬~11月上旬
主な紅葉樹種:カエデ、マンサク
イワナやヤマメも棲息しています
美肌の水といわれる美顔水
盛夏の阿寺渓谷。夏は車両規制あり
豪快!暴れ急流をすべる舟下りで天竜峡を満喫
天竜峡/飯田市
諏訪湖から太平洋へと流れる天竜川は、別名、暴れ天竜といわれています。両岸に険しい岩肌をさらす花崗岩が、その急流によって侵食され、巨岩奇岩がそびえ立つダイナミックな景観を造りあげてきました。それが、国の名勝に指定される天竜峡です。
紅葉の時期には、川下りで舟遊びを楽しみながら、伊那谷の自然と渓谷美を満喫するのが一番の人気アクティビティです。肌にあたる川風も心地よく、絶壁を染める紅葉に魅了されます。
ゆっくりと散策を楽しむなら、約1時間で歩ける周遊コースへ。10を数える奇岩や吊り橋、展望台が点在しています。そうそうたる文人墨客も魅了され、多くの名句や短歌を残してきました。周遊コースのマップは、観光案内所で無料配布されているので、地図を片手にめぐってみてはいかがでしょう。
紅葉の見頃:11月上旬~中旬
主な紅葉樹種:クヌギ、コナラ、モミジ、ドウダンツツジ、カエデ