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特集『信州歩く観光』❻
温泉街をフルリノベーション松本・浅間温泉トレッキング

国宝松本城を有し城下町として発展。さまざまなカルチャーが生まれる場所として注目されるエリアである松本市。松本駅前、松本城周辺など、街歩きにぴったりなルートはたくさんありますが、今回は歴史ある温泉地・浅間温泉へと向かいます。

更新日:2023/09/12

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TOP PHOTO:浅間温泉の入口看板が迎えてくれる


開湯1300年の歴史を有する浅間温泉。松本城から歩いて45分ほどの距離にあります。女鳥羽川にかかる浅間橋を渡ると温泉入口「歓迎 浅間温泉」という看板が迎えてくれます。
左に進むとこぶし並木に。桜より少し早い時期に白い花を咲かせる、春の訪れを知らせてくれる樹木です。

少し進んだ先には「ホテル玉之湯」が営む、漬物や手打ちそばが味わえる「つけもの喫茶」があり、さらにまっすぐ進むと「わいわい広場」が見えてきます。ハウスいちごの摘み取りができる「音泉いちごハウス」のほか、野菜の直売や土産品などの販売、ドリンクやソフトクリームなども楽しめる複合施設です。イベントも開催する場所なので週末は多くの人でにぎわうこの場所を過ぎると、第一の目的地である「手紙舎 文箱」に到着しました。

心躍る紙雑貨に囲まれて。「手紙舎 文箱」

日帰り温泉「ホットプラザ浅間」の向い、「浅間温泉郵便局」の隣に2022年にオープンしたのが「手紙舎 文箱(ふばこ)」です。

浅間温泉にオープンした理由は、「松本市は“クラフトのまち”として有名なので、きっと手紙舎とも相性がいいだろうと。また何より郵便局の隣という立地に、大きなご縁を感じました」とスタッフの北村さん。

建物は30年ほど前まで銀行として使われていた建物をリノベーション。金庫室や壁、天井など、当時の名残を感じる空間で、1階は紙もの雑貨と喫茶、2階は300種類以上の包装紙が並ぶ「紙マルシェ」に。そして金庫室の中は古書が並ぶ本屋さんになっています。

月替わりで作家さんの企画展を開催。訪れた日は、クマのイラストや木彫りなどで知られる作家・高旗将雄さんの展示が開催中でした。ご本人も在廊され、ファンの方でにぎわっていました。

郵便局の隣という奇跡的な立地

隣の郵便局では風景印を押してくれるので、ポストカードや手紙を書いて投函する人も

「手紙社が敬愛する作家さんの作品・商品の魅力をお客さまに紹介したい」という思いを持ってスタッフがセレクトした雑貨がたくさん並ぶ

3週間~1カ月ほどのサイクルで展示会を開催。「いつ訪れても出会いや発見があるお店でありたいと思っています」と北村さん

全国にいる作家さんの作品や雑貨がたくさん集まる店内。一つひとつ見ているだけであっという間に時間が過ぎてしまいます。
「商品数ですか…、数えきれないくらいあるので(笑)」と北村さん。松本をイメージした作家さんの作品をお土産として買っていく方も多いそう。

店内をじっくりまわった後はカフェで小休止。プリンやケーキなどのスイーツのほか、ランチも楽しめます。フードメニューは「キーマカレー」に加え、今夏から「ガパオライス」と、こちらのお店でしか味わえない「ナポリタン」も新登場。フードやスイーツはすべて、併設のキッチンで手作りしています。

作家さんの世界観が表現された限定スイーツと「キウイとレモンのドリンク」ソーダ割り

2階は300種類以上のオリジナル包装紙を販売する「紙マルシェ」

〈手紙舎 文箱〉
住所|長野県松本市浅間温泉1-30-6
電話|0263-87-2716
営業時間|9月末まではサマータイム営業:雑貨店10時~17時30分、カフェ(平日)10時~16時30分(16時LO)、(土・日曜、祝日)10時~17時30分(17時LO)
通常営業:10時~16時30分(16時LO)
定休日|火・水曜
https://tegamisha.com



好きなものに囲まれた空間でお気に入りのものと出合える瞬間。そんなワクワクがたくさん詰まった場所に、ずっととどまっていたい気持ちをおさえ、次の目的地へ向かいます。

昭和初期から温泉街を見守る老舗中華店「萬山園」

「手紙舎 文箱」から少しだけ傾斜のある坂道を50mほど上った場所にある「萬山園(まんざんえん)」。1927年(昭和2年)、現店主の渡辺さんのおじいさんが創業した老舗の中華料理店です。

看板メニューは店名からとった「萬山麺」。豚骨と鶏ガラからとった白濁のスープに自家製の極細麺。野菜と一緒に煮込んだ、一見、長崎ちゃんぽんを彷彿とさせるラーメンです。
「祖父が長崎出身なので、故郷の味ということで似てきちゃった部分はあるのかもしれませんね。でもお店をはじめた昭和初期はようやくラーメン屋が開店しだしたころ。このへんじゃラーメンもまだまだ珍しかった時代なので作るのにも苦労したと聞いています」(渡辺さん)

製麺所がない時代だったので、麺を自分で打つしかなかったことから自家製麺に。防腐剤や保存料不使用。昔から変わらず、今も自家製麺で提供しています。
「当時、中華麺っていうと黄色い縮れ麺を想像すると思うので、うちみたいな細いストレート麺はちょっと珍しいかもしれませんね」

「手紙舎 文箱」から「萬山園」へ向かう道

一度食べるとクセになる、ここでしか味わえない唯一無二の「萬山麺」(850円)

一度蒸してから揚げ焼きするため、タレを付けずとも味がしっかりついている「餃子」(400円)。こちらも人気

ぐるっとまつもとバス「湯坂」バス停すぐ

おじいさんからお父さんの代となった1965年~1980年代(昭和40年~60年代)は浅間温泉が一番栄えていた時代。温泉宿に来る団体客のバスがひっきりなしに走り、宿から宿へ移動する芸者さんの姿も多く見られていたそうです。
「僕が東京の中華店で修行を終えて帰ってきたのが1991年(平成3年)くらいで、ちょうどバブル絶頂期でした。2階の宴会場もフル回転で、毎日忙しかったですよ。当時はスナックや居酒屋もたくさんあったんですが、今はだいぶ減ってしまいましたね。この店も跡継ぎがいないので、僕の代で終わる予定です」

渡辺さんは60代前半なので今すぐどうこうということではないですが、長く愛されてきた老舗が浅間温泉から姿を消してしまうのはとても寂しいなと感じながらお店を後にしました。
 

〈萬山園〉
住所|長野県松本市浅間温泉1-30-12
電話|0263-46-0470
営業時間|11時~14時、17時30分~23時
定休日|水曜



浅間温泉の歴史は古く、開湯は698年、飛鳥時代だと言われています。江戸時代には「御殿場」が置かれ、松本城主や部下たちの別邸が建つようになったことから「松本の奥座敷」と呼ばれるようになりました。
現在、この「御殿場」の名残や資料などが、日帰り温泉「湯々庵 枇杷の湯 (トウトウアンビワノユ)」に残っています。

趣ある「枇杷の湯」、地元の人から愛される昔ながらの共同温泉浴場「仙気の湯」。そして浅間温泉の中心に建つ「ホットプラザ浅間」。日帰り専用の入浴施設3軒の湯をめぐるのも街歩きの楽しみのひとつです。

「ホットプラザ浅間」の前にある足湯は無料で利用できます(10時~23時)

温泉街をリノベーションする「松本十帖」

老舗が次々と歴史を閉じる中、街の再生”に名乗りを上げた宿があります。それが「松本十帖」。存続が危ぶまれた老舗宿「小柳」の経営を引き継ぎ、新たな宿泊施設「松本本箱」「小柳」として生まれ変わらせました。

「2018年に旅館を引き継いで営業していく中で、浅間温泉のことがだんだんわかってきたんです。廃業してしまう宿、空き家も増えていく中で、この場所だけきれいになってお客さんが来るようになっても、それだけではダメなんだと気づかされました」(取締役・小沼さん)

“ホテルの中だけで終わる滞在ではなく、浅間温泉を回遊してもらう滞在を目指す”
エリア全体をリノベーションするプロジェクトがはじまりました。

「小柳は歴史がある宿なので、近隣の方も知ってくださってはいたのですが、『近くに住んでいても入ったことないんだよね』という声が聞こえてきたんです。近所に住んでいる方にも気軽に来ていただける場所にしたい、そんな想いからブックストアやショップ、ベーカリーを設けました」

「小柳」の入口にある「ALPS BAKERY(アルプスベーカリー)」

「こんなところにパン屋さんがあったんだ!」
道路に面していないため、そう言って入ってくるお客さんも多いという「ALPS BAKERY(アルプスベーカリー)。宿泊者だけでなく、外来利用も大歓迎のホテル併設のベーカリーです。

10時の開店とともに、毎日15~20種類ほどのパンが並びます。
「ほとんどのパンに信州産の小麦を使用しています。今度新しく上田産の小麦を使おうと思って、さっき試作をしていたところなんです」とスタッフの召田さん。
長野市のパン店から昨年転職。もう一人のスタッフと二人で毎日店頭用とホテル用のパンを焼いています。

「秋はりんごやカボチャを使った商品もいろいろと考えています」
午後は売り切れる商品も多いので、午前中に行くのがおすすめです。

おすすめの「食パン」「野沢菜塩パン」「パンオショコラ」。塩パンは中には野沢菜漬けが入っている

ベーカリースタッフの召田さん。毎朝4時前に出勤しその日提供するパンを焼く

生活を彩る雑貨や食品を揃えるショップ「浅間温泉商店」

東側入口はこの看板が目印。階段をくだるとベーカリー&ショップがある

〈ALPS BAKERY(アルプスベーカリー)〉
住所|長野県松本市浅間温泉3-13-1
営業時間|10時~19時
定休日|水・木曜
https://matsumotojujo.com/journal/archives/1168



東側入口からベーカリーを出てすぐの角にあるレトロな建物が「平和堂菓子店」。昭和初期から営業する老舗の和菓子店です。自家製のあんこを使った最中は2023年夏に「材料が高くなっちゃったので10円値上げさせてもらいました」とお母さん。値上げしても120円。昔は和洋菓子、いろいろ作っていたそうですが、今は最中のみを販売しています。
「松本十帖ができて、若い子がたくさん来てくれるようになりました」と話してくれました。

「哲学と甘いもの。」へ向かう坂道の角にある

「哲学と甘いもの。」で人生を考える

「平和堂菓子店」から坂道を上ったところにあるのが「哲学と甘いもの。」。たくさんの哲学書を揃えるブックカフェです。かつては長屋として使われていた建物をリノベーションし、2020年オープン。店名に「哲学」とあるように、「自分を見つめる」「人生について考える」ことを目的としたカフェです。

お話を聞いた店主・谷さんの肩書は「管理人」。
「ゆっくり考えることを目的としたカフェなので、お客様には静かにお過ごしいただくようお願いしています。この場所を管理する、場を整えるのが私の役目と思っております」と谷さん。

おしゃべりをすることを目的とした場所ではないので、席はあえて会話がしにくいように作り、雑音もできるだけ排除するため、パソコン作業のキーボード音は禁止です。

「理想的なお過ごし方は、お一人で来てじっくり考え、ここで何かを見つけて帰っていただく。オーダーした後は何時間いていただいても構いませんよ」
一番長い人は開店から閉店までいたそうで…「3回くらいオーダーいただきましたが(笑)。他の方の考え事を邪魔さえしなければ、自由に過ごしていただいても構いません」

メニューはカレーライスやトーストなどの軽食に、コーヒーやハーブティ、アルコールも揃います。一番人気は「哲学プリン」。奄美大島産のサトウキビでできた素焚糖から作るカラメルがたっぷりかかっています。

1919年(大正8年)に建てられた建物を移築。カフェの前身は長屋だった

店内には哲学に関して書かれたものなど、約900冊ほどの本が並ぶ

個室、ソファ席など、じっくりゆっくり自分と向き合うためのさまざまな席が揃う

個性的な喫茶店を管理する谷さんは松本十帖が行っている「浅間温泉ウラ湯めぐりツアー」のガイド役も務めています。
「案内するコースは、お客様を見て決めています。坂道を歩くルートもあるので、歩くのが嫌いな方だったらこっちかなとか」(谷さん)
たくさんあるストックからお客様に合わせて案内してくれるため、谷さんのガイドはとても評判がいいそうです。

歩くのが大好きで1時間ほど歩いてから出勤する日もあるという谷さん。
「個人的には御殿山の遊歩道を歩くコースがおすすめです。なだらかで広い道なので歩いていて楽しいですよ」
温泉街だけでなく、周辺の山にも詳しい谷さん。トレッキングに興味がある人は、ぜひ谷さんにおすすめを聞いてみてください。

考えた後は脳に糖分を。人気の「哲学プリン」(450円)と、麹甘酒を牛乳で割った「甘酒ミルク」(600円)

管理人の谷さん。普段は着物姿のことが多いそう

「かきもの」(100円)。書きたくなった人向けに文具や封筒、便箋などを貸し出しも

〈哲学と甘いもの。〉
住所|長野県松本市浅間温泉3-12
営業時間|10時~17時30分
定休日|なし
https://matsumotojujo.com/journal/archives/924

カフェでいただく郷土の味。「おやきと、コーヒー」

温泉街の中心地に戻り、最後に訪れたのは「おやきと、コーヒー」。その名の通り、長野県の郷土食おやきと、コーヒーを楽しみながらゆっくり過ごせる居心地の良いカフェです。

コーヒーは東京・中目黒にあった『artless craft tea & coffee』が監修しています。
「2021年に目黒のお店は閉めてしまったので、『artless craft tea & coffee』が浅間温泉にあると驚かれる方もいらっしゃいます」(スタッフ・矢島さん)

おやきは長野市にある「ふきっこ」。無添加、モチモチした皮が特徴の蒸しあげたおやきです。
「野沢菜とつぶあん、そしてトマトは定番で置いています。その3種類に加え、さつまいもやりんご、バレンタインの時期はチョコレートなど、季節メニューが登場します」


良い感じに年季の入った建物は昔芸者さんのお稽古場だった古民家を改装。1階には住民のみが利用できる共同浴場が併設されています。

「夜はカフェバーになり、アルコールも提供しているので、近所の方がお風呂帰りに立ち寄ってくださいます」と矢島さん。
浅間温泉の観光窓口も兼ねたこの場所は、近所の人のサードプレイスという役割もあるようです。

長野市にある名店「ふきっこ」のおやき。写真は野沢菜とつぶあん

ホテル宿泊者のチェックインを行う受付も兼ねているので、14時~16時30分まではテイクアウトのみ

2階フロア。ゆっくり寛げるソファ席、松本家具の椅子とテーブルのセットもある

おひとり様も大歓迎。夜はトマトのおやきをつまみに特製のシードルを楽しみたい

立地柄、観光案内所と間違える方も多いそうですが「浅間温泉のこと、気軽に聞いてください!」とスタッフの矢島さん

ホテルのレセプションも兼ねているので、チェックインはこの場所で行いホテルへ向かいます。
「あえてホテルと離れた場所に作ったのは、浅間温泉街を歩いてほしいという理由からです。ホテルの中でチェックインができたら、そこで完結してしまいますよね。せっかくすてきな街並みがあるのだから、いろいろ見て、いろいろなお店へ立ち寄っていただきたいです」(矢島さん)

松本十帖のみならず「もっともっと新しいお店が増え、浅間温泉が活性化することを願っています」と矢島さん。
「目の前にパン屋さんができたんですよ」とうれしそうに話してくれました。
 

〈おやきと、コーヒー〉
住所|長野県松本市浅間温泉3-15-17
営業時間|10時~22時
定休日|なし
https://matsumotojujo.com/journal/archives/876



承前啓後――
浅間温泉が築きあげてきた歴史を守り、再生し、発展させる。
松本十帖をはじめ、浅間温泉の魅力を理解した人たちが集まり、思いを継承していきます。

街は生きているんだな。人々の情熱が街を生かしているんだな。
そんなことを考え、もうひと周り。浅間温泉を歩いてこようと思います。

今回歩いた「浅間温泉入口看板まで」JR松本駅「お城口」から約4.3km、歩いて約1時間

取材・文・写真:大塚 真貴子 イラストマップ:ながはり 朱実

<著者プロフィール>
大塚 真貴子(Ohtsuka Makiko)
長野県出身。東京で情報誌を中心とした雑誌、書籍などの編集・ライターを経て、2008年に地元である長野市にUターン。地域に根差した出版社において情報誌の編集に17年間携わり、フリーランスのローカルエディター・ライターとして独立。趣味は飼い猫(ねこみやくん)を愛でること。カレー好きが高じて友人と間借りカレー屋を月イチ営業中。

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